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おさなここち=サクラマス=

うけひのもり学園で南出喜久治先生が子供向けに書かれている文章”幼心地”の中のお話です。
元の文章はこちらうけひのもり
元の文章はひらがなやカナが打ってありますので、読みやすいように漢字にこちらで直しています。
子供向けというよりは、大人の私達が読んでなるほどと思うようなお話ですね。


皆さんは、「鱒寿司(ますずし)」を食べたことがありますか。酢飯の上に、味付けした 塩漬けの桜鱒の 切り身を載せ、それを笹で包み、気で作った丸い輪っぱの中に入れた独特の弁当です。
これは、富山(越中)神通川を登ってくる桜鱒を食材にした地元の食文化が産んだ古くからの名産品で、平安時代中期の『延喜式』という法令集にも出てくるものです。
江戸時代になると、将軍徳川吉宗に献上された越中神通川のます寿司を吉宗が絶賛したことから、現代に伝わる、あの独特の形をしたます寿司が全国的に広がって有名になりました。

 今日の話はこのます寿司に使われている「サクラマス」についてです。サクラマスの生態は、未だに分からない事も多く実に神秘的な物ですが、初めに知っておいて欲しい事は、このさくらますは、 なんと、川の上流(渓流)に住む「ヤマメ」と同じ魚(同種)なのだということです。
さくらますは、山奥にある渓流(谷川)でふ化し(卵がかえって)、その川から海に出て来て大きく育ち再びふる里の川を遡上して(流れを遡って)、そこで産卵して一生を終えます。
しかし、海に出ずに川で一生を過ごす者がいます。それがヤマメです。ヤマメは、成長しても30センチほどの小型の魚です。これに対し、海に出たサクラマスはその倍乗の70センチほどになります。同じ魚(種)なのに、育った場所、生態、体の大きさ、色、形も違うのです。
海に出て再び川を遡上するサクラマスを「降海型」と言い、海に出ずに川に留まるヤマメを「河川残留型(陸封型)」と呼びます。サクラマスの仲間には、サツキマス、ビワマス、タイワンマス、ホンマスなどがいますが、河川残留型だけのタイワンマス以外は
いずれも「降海型と「河川残留型(陸封型)」の両方がいます。例えば、サツキマス(降海型)とアマゴ(河川残留型)の関係もそうです。

 これだけの話なら、単なる初歩的な知識に過ぎません。ここからが大事な所です。では、ヤマメ(河川残留型)とサクラマス(降海型)とは、どのようにして分かれるのでしょうか。それは、種族保存に必要な生存競争に寄るものです。サクラマスは、川を遡上して山奥の渓流で産卵します。そして、そこで卵がかえって稚魚になりますが、魚の習性として、流れに逆らって上流の方を向いて泳ぎます。そこに、川に落ちた小さな昆虫やプランクトンなど、稚魚のえさが上流から流れてきます。稚魚たちは、それに飛びつきます。力の強い稚魚は、どんどんと前に出て、その餌を食べますが、力のの弱い稚魚は、食べ後れてどんどんと下流に流され、ついには海に出てしまいます。
力の強い稚魚だけが川に留まり、そこで生き残るのです。つまり、海に出る稚魚は、生存競争に負けた負け犬(負け魚?)なのです。
 しかし、海に出れば、川で暮らす以上に驚くほど多くの外敵がいます。 そこで生き抜いて大きく育ち、そして、そこで勝ち残った者だけが再びふる里の川を登ってくるのです。まさに敗者復活、凱旋帰国です。
そして、渓流の産卵場所には、自分を押しのけて餌を取りつづけ、海に落ちずに川に留まったかつての勝者であるヤマメもいます。しかし、川のような狭い場所ではなく広い海でもまれて強く育ち、体も大きくなったサクラマスにヤマメが出会うと、ヤマメの方が逃げていきます。サクラマスは、ヤマメを押しのけて一番産卵しやすい場所に産卵します。稚魚の時の立場が逆転したわけです。そして、雌のサクラマスが産卵し、雄のサクラマスがこれに精子をかけて受精させますが、体が小さくすばしっこいヤマメの雄も、ヤマメの雌が産んだ卵だけでなくサクラマスの卵にも精子をかけて子孫を残します。サクラマスは産卵すると死にますが、ヤマメは翌年も産卵して寿命を終えます。このようにして、サクラマスとヤマメは絶妙な仕組みによる棲み分けと分担によって強い子孫を残していくのです。

 このことは、私達の人生において多くの教訓を与えてくれます。これは、「人間万事塞翁(さいおう)が馬」という故事の教訓と似たところがあります。 これは、塞翁という 老人の飼っていた馬が逃げたのですが、数ヶ月後にその馬が駿馬(立派な馬)を連れて帰ってきたので、その老人の子がその駿馬に乗ったところ、落馬して足の骨を折ってしまった事で兵役を免れて命拾いをしたという話です。
人生において災いと幸せとが点々として予測できない例えであり、「禍福(かふく)は糾(あざな)える縄(なわ)の如(ごと)し」と同じ意味で説明されます。

 しかし、このサクラマスの話から得られる教訓は、そんな単純なものではありません。勝者と敗者とが逆転することもあるので、最後であきらめてはならないという教訓だけでなく、もっと別の意味があるのです。つまり、産卵にまでたどり着いたサクラマスもヤマメもどちらも勝者であるということです。 川のヤマメも海のサクラマスも、産卵まで たどりつけたのはごく少数なのです。大多数のヤマメとサクラマスは、稚魚から成魚になるまでの間に、川と海にいる外敵におそわれてほとんどが絶命しています。 ですから、産卵場で出会ったヤマメとサクラマスは、お互いに切磋琢磨して、ともに強い子孫を残す事ができた勝者なのです。ヤマメとサクラマスとは、同種ですから敵対関係にはなく、強い子孫を残すために 競い合った同志なのです。

 この教訓こそ一番大事なものです。ですから、人生の本当の勝者は、一人でも多くの強い子孫を残すことのできる強い生命力と、少しでも多くの人に感動と勇気を与える強い意思力よって、強い子孫と強い意志をこの世に残すことが出来るか否かで決まるのであり、わずかな立身出世や財産政経などの世俗的、刹那的なもので決まる物ではないのです。

 そんな事を思いながら、家族でます寿司を味わってみてください。


平成22年11月5日記す
南出喜久治
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